奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画について、「殺処分計画だ」「幸せに暮らしてる猫ちゃんを不当に捕獲している!」と言う声を聞きますが、実際のところどうなのでしょうか?
ここでは奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画をしっかり正しく理解できるように、計画書を元にした解説を行っています。
今回は管理計画の表紙部分と「1.はじめに」のターンです。
この記事だけでもノネコ管理計画とは何かを知ることができますので、まずはとっかかりとして参考にしていただければと思います!
表紙
奄美大島における生態系保全のための
ノネコ管理計画
(2018 年度~2027 年度)環境省那覇自然環境事務所
引用元:奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画
鹿児島県
奄美市 大和村 宇検村 瀬戸内町 龍郷町
表紙からわかること!結構ありますね!
ノネコ管理計画がどういう計画なのかが明確になっているこの表紙、とても優秀だと思います。
ノネコ管理計画の目的
奄美大島における生態系保全のための
ノネコ管理計画
ココ!重要です!
「奄美大島における、生態系保全のための、ノネコ管理計画!」
よく世界自然遺産のためだ~!など様々な議論で盛り上がっていましたが、実は表紙に答えが書かれているんです。そう、ノネコ管理計画は奄美大島の生態系を保全しようね、っていう計画!
ここさえ覚えておけばもはやノネコ管理計画とは何かわかったも同然です。お疲れさまでした。
ノネコ管理計画はいつからいつまでの計画?
(2018 年度~2027 年度)
こちらも重要です。
ノネコ管理計画はまさに2018年から既に始まっている計画、今でも時々ノネコ管理計画自体が始まることを反対されている声も見かけますが、しかし現在は2021年ということを考えると始まり中止を呼び掛けるのは少々時が遅すぎると思わざるを得ません。
また殺処分計画と言われるノネコ管理計画ですが、2018年から始まり安楽殺ゼロなうですので、殺処分計画でもないことが表紙でわかる仕様となっております。
ノネコ管理計画はどこが関わっている計画?
環境省那覇自然環境事務所
鹿児島県
奄美市 大和村 宇検村 瀬戸内町 龍郷町
ノネコ管理計画について「奄美はひどい!」という声も時々上がりますが、実はノネコ管理計画を実行しているのは奄美の5つの市町村と国。環境省那覇自然環境事務所と記名されている通り日本の計画なんです。ノネコ管理計画は実行されているのは奄美だけれど、国の計画であること。ここを外さないようにしましょう。
また「生物多様性を守ろう」という国と国で交わされている約束がある(生物多様性条約/国際条約)ことを踏まえると世界の計画と見ても良いのではないでしょうか。なので色々な人がノネコ管理計画について話し、考えることは有意義なことと個人的には思います。
ただ事実とは違うことで白熱するのは感情を煽るばかりですので、何が正しいのかフェイク情報に踊らされていないか。たびたび立ち止まって考えることも大切です。
1.はじめに
1.はじめに
奄美大島には、アマミノクロウサギやアマミヤマシギをはじめ、多くの固有種や絶滅危惧種を含む貴重な在来種が生息・生育している。奄美大島では、1979 年に持ち込まれたマングースが増加して在来種を捕食し、在来生態系へ大きな影響を及ぼした。このため環境省は、2000 年から本格的なマングース防除事業に乗り出し、現在はマングースの個体数の減少・分布域の縮小が進み、在来種が回復しつつある(Fukasawa et al 2013, Watari et al 2013)。一方で近年、森林内においてノネコの目撃頻度が増加し、ノネコの森林内での繁殖や希少種の捕殺も確認されるなど、ノネコによる希少種への影響防止が新たな課題となっている。ネコは、国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会が外来種の脅威について注意喚起するために作成した「世界の侵略的外来種ワースト 100(100 of the world’s worst invasivealien species)」にも選ばれ、世界的にも特に生態系等被害が深刻な種として位置づけられている。また、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)(環境省、農林水産省 2014 )」においても、ノネコは総合的に対策が必要な外来種、かつ特に緊急性が高く各主体がそれぞれの役割において積極的に防除を行う必要がある緊急対策外来種に分類されている。「外来種被害防止行動計画(環境省、農林水産省、国土交通省 2015)」では、侵略的外来種の侵入・定着が確認された場合には被害が顕在化する前に対応する方が、被害が顕在化してから対応するのに比べはるかに効果的であり、生態系等に与える影響も少なくてすみ、さらには駆除等が必要な個体の数も最小限に抑えることができることから、早期に迅速に防除を図ることが重要であるとしている。このことも踏まえ、関係機関が連携して迅速にノネコの対策を進めるべく、本管理計画を策定するものである。
引用元:奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画
ノネコ管理計画1ページ目に「はじめに」という項があり何故ノネコ管理計画をするのかが書いてあります。
ノネコ管理計画を正しく理解する上で必要な土台となる項目です!
奄美にいる生き物
奄美大島には、アマミノクロウサギやアマミヤマシギをはじめ、多くの固有種や絶滅危惧種を含む貴重な在来種が生息・生育している。奄美大島では、1979 年に持ち込まれたマングースが増加して在来種を捕食し、在来生態系へ大きな影響を及ぼした。このため環境省は、2000 年から本格的なマングース防除事業に乗り出し、現在はマングースの個体数の減少・分布域の縮小が進み、在来種が回復しつつある(Fukasawa et al 2013, Watari et al 2013)。
ここでは「奄美にはたくさんの固有種、絶滅危惧種などの貴重な在来種がいて、マングースによって生態系に影響が出たけどマングース防除事業によって今は在来種が回復してきているよ」ということが書かれています。
面白いのが、既にアマミノクロウサギ以外の生き物の名前が「1.はじめに」の時点で登場しているという事!たびたび「アマミノクロウサギの個体数は増えてきているから管理計画せんでええやろ!」というような意見を見かけますが、奄美には「アマミノクロウサギだけじゃないよ」ということが「1.はじめに」に書かれているんです。
つまりアマミノクロウサギだけ多くなれば良いわけじゃないという話になるわけですが……しかしどれくらいの生き物がいるのか、これだけじゃちょっとイメージしづらいので参考資料も見ていきましょう。
奄美の希少野生動植物
奄美市のページにどんな希少野生動植物がいるのか、表でまとめられています。
希少野生動物が22選、奄美市指定希少野生植物が35選、国・県による指定された希少野生動植物……とんでもないですね!奄美にはアマミノクロウサギだけじゃないことがわかりますね。
文字のラインナップだけじゃ正直イメージつきづらいですので、子供用パンフレットも見てみましょう。
代表的な奄美大島の生き物がなんとなくわかってきましたね。こちらのPDFはわかりやすいので奄美大島の生き物について説明するシーンがやってきたら活用すると◎
新種も見つかる奄美大島
実は奄美、今いる希少野生動植物とは別に 結構な 頻度で新種が発見される島なんです。南海日日新聞のサイトで「新種」で検索すると、ぞくぞくと記事が表示されるので、一部を紹介しますね。
- 新種ハゼ2種、鹿児島大発見 奄美大島と加計呂麻島にも生息
- 新種「アマミヤツシロラン」 地元植物研究家らが発見 奄美大島・徳之島
- 新種アマミムヨウラン発見 奄美大島、植物研究家の森田さん
- トカラ近海で新種の魚類発見
- 新種ニゲミズチンアナゴ大島海峡で発見
- 新種の水生昆虫アマミヨコミゾドロムシ発見/上手さん(岐阜)
- 新種「マホロバハタ」発見 かごしま水族館
- 大島海峡で新種発見 「カリベレムノン ヒノエンマ」 妖怪にちなみ命名 瀬戸内町
- 新種のゴキブリ2種発見 鹿大など研究チームが公開 南西諸島
更に2020年3月21日の記事では、国内希少種に奄美の動植物10種が追加されたという記事もありました。
新種の認定を受けるには調べて論文にまとめて出してみたいな工程が必要らしくて、ぞくぞくと新種が発見されるためシンプルに大変だ!という話を聞いたことがあります。確かに毎年こんなに新種がいっぱい発見されてたら大変ですね。
山でも川でも海でも新種が発見されている奄美大島、アマミノクロウサギだけじゃないことがもっと広まると良いのにな~!
マングース防除事業が成功して確認されている在来種が回復傾向にあったとしても、まだ見ぬ生き物が居る限り人の影響で発見される前に絶滅する可能性もあるわけですね。生き物はただ珍しいだけじゃなく、その特性によって私たちを助けてくれる可能性(新薬とかね)も秘めていますから、できるだけ人知れず滅ぶなんてことは避けたいですね。そのためのノネコ管理計画でもあると私は思っています。
ノネコの目撃頻度が増加、希少種捕殺が確認されている現実
一方で近年、森林内においてノネコの目撃頻度が増加し、ノネコの森林内での繁殖や希少種の捕殺も確認されるなど、ノネコによる希少種への影響防止が新たな課題となっている。ネコは、国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会が外来種の脅威について注意喚起するために作成した「世界の侵略的外来種ワースト 100(100 of the world’s worst invasivealien species)」にも選ばれ、世界的にも特に生態系等被害が深刻な種として位置づけられている。また、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)(環境省、農林水産省 2014 )」においても、ノネコは総合的に対策が必要な外来種、かつ特に緊急性が高く各主体がそれぞれの役割において積極的に防除を行う必要がある緊急対策外来種に分類されている。
マングース防除事業が成功しつつあるが、ノネコの目撃頻度が増加傾向にあるという話ですね。猫は海外でも侵略的外来種ワースト100に入るなど、生態系に深刻な影響を与える種として位置づけられているという背景があるという説明もあります。
実際に猫が海外でも影響を及ぼしているという一例がありましたのでご紹介します。
最新研究によると、アメリカ本土では毎年、多くの鳥や哺乳類がネコに殺されているという。その数は鳥が14億~37億羽、哺乳類が69億~207億匹にのぼると推定される。これは「途方もない」数字だと、研究の筆頭著者であるピーター・マラ(Peter Marra)氏は述べる。
引用:ネコは野生動物の深刻な脅威|NATIONAL GEOGRAPHIC
レッグ氏は人々がネコに対してさまざまな意見を持っていることを認めていますが、ネコが存在しない環境で進化したオーストラリアの生態系にとって、ネコが破滅的な問題であるのは確かだと指摘。「オーストラリアの哺乳類絶滅頻度は世界で最も高く、過去200年の哺乳類絶滅における3分の2はネコが大きな原因となりました」と述べています。
引用:ネコが大量の野生動物を殺してしまい希少な動物たちが絶滅の危機に瀕している|Gigazine
猫がもともと居る生き物で生態系に組み込まれていたのならこういった例も自然のことと言えるのですが、猫は外来種で生態系に組み込まれてもいません。生態系に組み込まれていない猫が生態系をめちゃくちゃにしてしまうのは問題なので、ぐちゃぐちゃになる前に、影響が顕在化する前に対策が必要なのですね。
現に全世界で猫対策がとられている現状があります。
影響が大きく出る前に対策をすることが大切
「外来種被害防止行動計画(環境省、農林水産省、国土交通省 2015)」では、侵略的外来種の侵入・定着が確認された場合には被害が顕在化する前に対応する方が、被害が顕在化してから対応するのに比べはるかに効果的であり、生態系等に与える影響も少なくてすみ、さらには駆除等が必要な個体の数も最小限に抑えることができることから、早期に迅速に防除を図ることが重要であるとしている。このことも踏まえ、関係機関が連携して迅速にノネコの対策を進めるべく、本管理計画を策定するものである。
ここには侵略的外来種が侵入して定着が確認されたとき、被害が目に見えるまでになる前に対応した方が生態系に与える影響が少ないよ、駆除が必要な個体も早く行動することで少なくすむよと書かれていますね。
確かにこのまま放置してノネコが増えた時、影響が目に見えてから駆除するとなると今よりも多い数のノネコの駆除が必要になるでしょうね。今よりも多い数のノネコ駆除が必要になれば、貰い手が今より見つからない可能性も高いでしょうし、更に数が多いという事で人員も必要になりお金も今よりかかってしまいますよね。
だからこそ顕在化する前の今、影響が出てくる前に・最小限で済むように対策する、というのはとても理にかなっています。
現にノネコが希少種を捕殺していることもわかっているので全く影響がないということもないでしょうし、ノネコがまだ少ない今(少ないと言っても推定600-1200頭ですが)捕獲して譲渡していけば、ノネコが険しい山から出て家でぬくぬく暮らしていける確率も上がりますし山に居る希少種も本来の生態系で生きられるようになるし正直双方良い選択に私個人の人間目線では思います。
まとめ
ここまでお疲れ様でした。ノネコ管理計画について理解を深めるきっかけになれば幸いに思います。この記事は以前、まとめた記事を手直ししたものになりますが、改めて自分で書いたこの「表紙」と「はじめに」の部分だけを見ても、ノネコ管理計画についてぎゅっとまとめられているのでここだけ読めばもうOKなんじゃないかなとすら思います。
ですが、このシリーズは全5回、あと4回残っておりますのでもしお時間頂けましたら引き続き付き合っていただけると嬉しいです。反対するにしろ賛成するにしろ、どちらでもないにしろ正しい情報で判断しましょう。
では!